いまやハイテク=高収入は成り立たない
メーカーは、日本の年収1000万プレーヤーの最大勢力の一角を占めてきた主要な業界です。 技術職編 で解説しているとおり、理系エンジニアのスタープレーヤーを輩出する業界としても重要です。
高度成長期以降、約50年にわたって「メイド・イン・ジャパン」は世界の中でも非常に競争力が高く、高品質なハイテク製品を次々に生み出して圧倒的な貿易黒字を稼いできました。
ところが近年は、メーカーの中でも競争力を失いつつある業界が増えてきており、大前研一の主張する “産業突然死の時代”が現実になっています。ハイテク製品が売れなくなる現象はクリステンセン教授のベストセラー『イノベーションのジレンマ』で分析されているとおりです。簡単に言えば「市場が求めている品質がより安価な製品で実現できるようになってしまった」ことで、儲けの出る分野そのものが減ったり、インドや中国などの新興国に産業が流出したり、ということが起こっています。
“ムーアの法則”などのキーワードで知られるIT業界は一般的には付加価値の高いイメージを持たれていますが、実情としてはまさにムーアの法則の影響によりドッグイヤーで陳腐化が進んできました。
製造業が工場を操業するには一定規模の先行投資と人員が必要になり、想定どおりに市場を開拓できなかった場合には大きなダメージを受けることになります。
一人のキャリアよりも短い期間に産業が陳腐化することが当然になったことで、メーカーといえども企業と市場の将来性を見通しておかなければ予期せぬリストラに直面する危険が高まっています。
大勢は年功序列を維持
メーカーの昇給は、一般的に年功序列を維持しています。これは、商品開発だけでなく、先端技術の研究開発投資や工場の生産技術も商品力の源泉となっていることや、幅広い営業網によるスケールの確保など、想像を絶するほどの人数の努力が結集した成果が業績を生み出している、という考え方があるからです。
そのため、メーカーは業績が悪くても減俸を分かち合って雇用のボリュームを維持する傾向があります。会社の業績が良く製品ラインが増えれば出世ポジションも増えチャンスが大きくなりますが、近年のように不況が長期化すると若手ほど昇進がスローダウンする傾向が強まっています。
世界的にシェアを維持している自動車や光学メーカーなどが競争力を維持している一方、陳腐化ペースの激しい家電や半導体、通信メーカーなどは瀕死の状態ですし、内需主導のITメーカーも苦しい情勢と言えます。
今後はこのような一般の人に親しみのあるブランドよりも、グローバルニッチトップの部品メーカーの方がシェアを確保しやすい情勢になっているため、サバイバルに適しています。
それぞれの産業にはライフサイクルがあり、市場の伸びが止まるとシェア1位の企業を中心に買収統合が進み、シェアの低いメーカーは必ず淘汰されていきます。GEの名経営者ジャック=ウェルチがシェア1位または2位になれない事業を次々と整理していったエピソードはよく知られています。
従来のように1000万級のポジションを獲得したら定年まで一定の地位と待遇が確保されている、とは言い切れない実情があります。年収1000万という水準は能力給ではなく業績給であるため、会社の収益が維持・発展しなくては成り立たないのです。
若手の転職リスクは相対的に小さい
このように、メーカーの年収1000万ポジションについて考えるとき、現在の1000万プレーヤーについて語ることはできても、将来的にどのような展開になるかは極めて不透明な状況です。
先述のとおり、製造業は圧倒的に大規模なチームプレーで運営されているため、その環境で個人の力量で戦局を左右できる可能性があまりありません。
雇用こそ安定的な傾向は続くかもしれませんが、役職のローテーションが鈍化することは若手にとってはキャリアプランのリスク増大に直結しています。
メーカーは他業種と比べて20代の給与水準が低いこともあり、若手の転職リスクは相対的に小さいと言えます。
保守的な気質の人材が集まっているということもあり、これまでは定着率の高い業種でしたが、今後は市場の先行きを自分の頭で判断し、積極的に職業選択を図ることが不可欠になることは間違いありません。
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