年収1000万プレーヤーへの転職(9) 起業家編

年収1000万円は通過点

若くして年収1000万超を目指す道のひとつに独立起業があります。まったく簡単ではありませんが、給与水準が上がりにくい市場環境では有力な選択肢のひとつとなります。

製品開発をメインにする技術系ベンチャーでは失敗確率は相当高い一方で、商品力のある商材を売る営業会社の業態であれば、実力派の営業マンの成功確率は比較的高いと言えます。

サラリーマンとしては年収1000万は到達の難しい金額なので、「アントレプレナーになって年収1000万円を目指す」という目標設定はありがちかもしれません。ただ、起業家にとっては、年収1000万はかなり初期の通過点に過ぎません。

背負っているリスクに対して総収入が1000万ということでは釣り合わないのです。「 年収1000万プレーヤーの実像(8) 社長・役員編 」で解説したとおり、社長は往々にして無限責任を負うこともありますから、一般的な収入水準ではリスクを十分ヘッジできません。

「小さく生き延びる」という筋書きは幻想

起業のゴールを何に置くかは、人によって異なりますし、ビジネスを手がける過程のなりゆきにも大きく左右されます。

ただ、ビジネスをひとたび始めると、企業規模として年商10億円程度を目標に置かないと継続していくことが難しいことに気づきます。

このことはもっとも小さいビジネス形態である個人事業を考えてみると分かりやすいでしょう。

1人ビジネスでは自分以外に人件費はかかりませんから、講師などのサービス業の場合、年商1000万=年収1000万と考えられます。経費もあるでしょうが、年商2000万と考えても話の筋はそう変わりません。

1人ビジネスの問題は、講師としての講演だけでなくビジネスとして必要な業務をすべて自分でやらなければならないことです。

営業や営業事務、税務、法務、庶務など、1年中を通して本業以外の事務がかなり多くあります。税務などは税理士に依頼することになるのですが、税理士に頼んだとしても税務は残ります。

またスケールの小さいビジネスは、買い手にとって多くの場合、別ルートで調達できたり不要になったりすることから持続可能性が低い点も泣きどころとなりますし、自分が倒れた際の代替手段がないという危険もあります。

この点を考えると、1000万〜数千万規模のビジネスでは、需要が不安定な環境で事務のかたわら細々とサービス提供するゲリラ戦になってしまい、ジリ貧になりがちです。

そのため、営業チームや総務担当などの分担を考えていくと、中小企業の場合、差別化も図りづらい懸念も考慮にいれて、結局のところ10億円規模の企業が生き残っていく、という生態系になっています。

年収1000万にとどめるなら出口戦略は必須

会社の有事のことも考慮にいれて社長は個人資産をなるべく多く持っておいた方が良い、という点はよく知られたサバイバル戦略です。

ただ、実際問題として、年収1000万円以下となるような報酬設定をしているスタートアップ企業もそれなりに多くあります。

ひとつには所得税が累進課税であるため、会社が収益を上げていたとしても高額すぎる所得は不合理である、という点があります。また、営業活動に再投資した方が成長できることが分かっているケースもあるでしょう。

起業家は創業オーナーでもありますから、自社の資産を増やしてキャピタルゲインを狙うことには合理性があります。

この場合、注意しておかなくてはならないのは、出口戦略、つまり「持株を最終的にどう売るのか?」を早い段階から想定しておくことが重要ということです。

非公開企業の株は流動性がなく紙クズとも言えますから、IPOするなり事業会社・プライベートエクイティファンドにM&Aしてもらうなりしないとゴールにたどりつきません。

出口が明確でないまま時間切れすると、社長・役員編で解説したとおり事業承継の問題が待っています。

起業家の資質=「鋼鉄の意志」

起業には苦労もリスクもありますが、市場の不確実性に主体的に対処できるというメリットもあります。不透明な時代ほど、困難な道を行くことの合理性が高まります。

アントレプレナーに必要な資質は「鋼鉄の意志」です。これはゴールするために必要な資質ではなく、そもそもスタート地点に立つために必要なチケットなのです。

似て非なる類型として「気合はあるが根性がない」というタイプの人もいますが、根性がない自覚がある人や何でもかけ声倒れで先延ばしする傾向がある人は向きません。

起業に必要なのは「分からないことを分かるまで調べる。できないことをできるまでやる」に尽きます。壮大な消去法を最後までやり切ることが重要なのです。

このような素朴なことにチャンスがあるのは、大多数の人が入口に立つこともなく勝負を降りている、ということなのでしょう。

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