- 社長は番頭を求めている
- 主な経営企画スタッフの役割と仕事
- ロジスティクスが既存ビジネス管理の要点
- コンサルタント転職組の評価
- CFOと経営企画室長の間に横たわるキャリアの溝
- 知られざる経営企画転職のポイント
経営企画部や社長室など名称は異なりますが、従業員数100名超の企業の多くに経営企画機能が置かれています。
経営企画部門が担っている機能は多彩で、企業によって業務のカバー範囲が異なることもありイメージをつかみづらいポジションではあります。
この記事では経営者のニーズから経営企画の役割と仕事を考えます。
1:社長は番頭を求めている
経営企画部門を立ち上げるフェーズで、経営者の話を聞くと「任せたい」ということが第一の要望と言えます。
たとえば創業社長の場合、より具体的には「ここまで自分でも試行錯誤しながらビジネス活動を牽引してきた。日々の活動についてはこれまでと同じことを地道に続けていけば、間違いなく一定のペースで伸びるはずだ。既存事業についてはより緻密で着実な人材に”任せて”、自分は社長として会社が次のステージに行けるような努力をしたい」というようなストーリーになります。
つまり、経営企画の中心的な役割は日本の商家でいう”番頭”的な機能といえます。
企業のナンバーツーとして、既存ビジネスを維持発展するために何でも実行できる人物像が経営企画部長、社長室長に求められています。
最近では、ビズリーチのような転職サイトでも求人がふえているようです。
2:主な経営企画スタッフの役割と仕事
経営企画は、各企業によって置かれる機能が大きく異なります。スタッフ部門はCxOや部門長の下に組織されるため、トップの管掌範囲によって部署の構成も変わってくるのです。財務・経理チームなども経営企画部に含まれる構成もありますが、ここでは経営企画として典型的なスタッフの仕事を紹介します。
経営管理
全社の予算統制を計画・実行するため、業績を取りまとめる機能を持ちます。ラインの事業部門長や事業企画スタッフとともに期ごとの予算を策定したり、実績を集計します。予算は売上・利益の成長を織り込むため、重点施策のストーリーとセットで策定します。コスト面でも全社の投資ガイドラインを前提として部門間の支出計画の調整が必要となります。また、実績が未達含みの場合には立て直しの対策を立案し、役員と報告・議論します。連結企業の場合には、子会社も同様の経営管理の活動に含まれるケースが多くあります。
取締役会運営
取締役会のファシリテーション役として招集・運営を行い、企業の公式文書として取締役会の議事録を作成する仕事です。また、会議形式ではなく文書を作成したうえで持ち回り決議を得るケースもあります。事務のウェイトの高い役割ですが、高度な経営議論にキャッチアップする必要があるほか、意図を正確に反映することが求められます。
IR・株式事務
主に上場企業の株主対応や株主総会運営の役割を持ちます。決算や適時開示など、企業としての公式見解を整理し、企業トップへのレクチャーとフィードバックを実施します。また、機関投資家への取材対応により企業価値や格付けの向上・維持を図る機能を持つ場合もあります。
内部統制
各種法令、業法、上場レギュレーションなどを守るため、社内の統制ルール策定やプロセス実装を行うほか、コンプライアンス窓口の役割を持ちます。
また、これ以外の幹部スタッフの役割として事業企画があります。「 事業企画の転職、4つのポイント 」を参照してください。
3:ロジスティクスが既存ビジネス管理の要点
経営企画の仕事をスタッフ一人ひとりの仕事に細分化すると、予算管理や中期計画策定、財務など複雑性の高い分析業務の割合が多くなります。
経営企画の日常的な業務が分析中心になるのは、多くのビジネスでロジスティクスが経営の要点になるからです。
ビジネスのロジスティクスの基本形は言葉のとおり「物流」ですが、最適化すべき範囲には「商流」や「金流」も含まれます。
物流の最適化は不良在庫の圧縮や在庫切れの低減、配送コストの削減やスピードアップなどがあります。
商流の面では販売機会の大きな分野へのセールス資源の重点配分、金流の面では売掛け・買掛けの監督によるキャッシュフローの確保などが挙げられます。
こういったロジスティクス最適化は、既存ビジネスの分析の積み上げから導ける部分が大きく、戦略コンサルティングファームが得意とする領域でもあります。
経営企画が分析と提言に終わってしまっているようでは「外部のコンサルタントに置き換えた方が合理的だ」という発想にもなりかねません。
経営企画の重要な役割は、ロジスティクス改善によって既存ビジネスを継承・発展させるため、社長に代わって施策を打ち続けることにあるのです。
4:コンサルタント転職組の評価
事業会社の経営企画職は、コンサルティング業界との互換性が高い職種で、コンサルタント転職やその逆のポストコンサル転職の両面でポピュラーなキャリアパスとなっています。
事業会社では、執行役員クラス以上の上級管理職へのパスを考えるとき、1点考慮に入れておくべきポイントがあります。
下のキャリアマップのとおり、生え抜きの経営企画マネージャーは、管理部門職を経験してキャリアアップしていくケースが一般的です。40代以降に上級管理職に昇格させるルートでは、ラインのマネージャーを経験するパスも多々あります。
また、ロジスティクス分析や事業価値算定に強い人材が社内調達しづらいケースなどでは、戦略ファームなどのコンサルタントから経営企画職に転職してポジションを得るケースも多くあります。
コンサルタントは一般的に論理的思考や分析力に優れているため、日常的な業務分析では実力を買われることになります。
このような分析力にくわえて、事業会社では部門間を調整したうえで具体的な施策を実行する役割が重要になるため、じつはエグゼクティブ層の経営企画部門長ともなると人間的魅力や成熟度といった”番頭”的要因がかなり求められます。
事業会社のマネージャー採用でコンサルタントの人物評価をする際には、意外にも実績というよりも人物特性の方が注目されていることが多いのです。
コンサルタント業界内の閉じたキャリアを積んでいると理知的な参謀タイプになってしまう傾向が強く、社長から見ると”批評家タイプ”という分類になってしまう懸念があります。
コンサルタントから事業会社の経営企画トップを視野に入れるキャリアプランでは、30代までには事業会社のライン職を経験しておくことが重要なポイントになります。
経営企画ポジションで活躍できる人物特性
経営企画ポジションを任された時点で、「業務推進力」を評価されての抜擢でしょう。この力が無ければ、活躍する可能性はゼロです。
番頭にしても参謀にしてもポイントとなるのは、「実行力」「やりきる力」と「聞く力」のバランスです。
前者は注目されることや指摘されることも多いですが、中間ポジションとして「聞く力」は大切になります。
コンサルタントや経営企画職で活躍するベースの人物特性の詳細については、「 コンサルタント転職で活躍する人物特性 」を参照してください。
5:CFOと経営企画室長の間に横たわるキャリアの溝
経営企画室長は管理部門ミドルマネージャーの筆頭格であることが多く、仕事上はCFOに一番近いポジションと言えます。
一方、キャリアアップの観点から見ると、経営企画室長がCFO候補とは言い切れない面もあります(会社ごとの方針にもよります)。
経営企画室長は事務取りまとめのトップとして機能するのに対して、CFOは経営者として企業の持続性確保と資産効率の向上、成長のバランスをとる意思決定をすることが主な役割です。
両者は求められる資質が異なるため、経営企画室長が事務方トップの終着点となっている企業もあります。トップマネジメントについては「 役員・取締役とは? 」でも解説しましたが、大臣と事務次官の違いを理解すると適切なイメージを持てるかもしれません。
役員へのキャリアパスとしては、ラインのマネージャー経験を重視するケースが多いため、遅くとも30代では営業系、製品系ミドルマネージャーに転じておくことが40代以降の上級管理職への可能性を高めます。
じっさいに「経営企画としての専門性を高めたい」という主張も聞きますが、タコツボ化することにより逆に身動きを取りづらくなることもあります。
ビズリーチのような転職サイトで、履歴書と経歴書だけ書いて、待つのも一つですね。
スタッフ、マネージャー、役員の道筋が一本道になっていないため、数年スパンで行き詰まりを感じる方が多いのが実情です。
管理部門は、従業員の視点でローテーションが設計されていることも稀で、他の職種にくらべると、適切なタイミングにマネージャーとしての資質を得る機会にも難があります。
また、経営企画ポジションの特殊性として、求人案件がオープンにならないケースが多々あります。そのため、じつは転職サイトなどの媒体では有効な選択肢を探索し切れない構造があります。
結論として、経営スタッフとしてのキャリアを高めていくためには、その過程で比較的大きなキャリアチェンジを経ることが重要であり、局面ごとに新しい視点を提供できる優秀な転職エージェントと長期的な関係を築いておくことが最大のポイントとなります。